「ガス」と一口に言っても、家庭で使われるエネルギーにはLPガス(プロパンガス)と都市ガスという2つの供給方式があります。
どちらも調理や給湯、暖房など、暮らしを支える重要なライフラインですが、その仕組みや特性は大きく異なります。
新築の家を建てるとき、賃貸物件を探すとき、あるいは長年使った給湯器やコンロを交換するときなど、人生の節目では「LPガスと都市ガス、どちらを選ぶべきか」という判断に迫られる場面が必ず訪れます。
しかし、多くの方は「都市ガスの方が安いらしい」「LPガスは火力が強いと聞いたことがある」といった断片的なイメージだけで判断してしまいがちです。
実際には、両者の違いは単なる料金の高い・安いにとどまりません。
■ガスの成分や発熱量
■供給方法の仕組みとエリアの制限
■災害時の復旧スピードや安定性
■設置条件や対応できる機器の種類
こうしたポイントを総合的に理解しないまま選んでしまうと、長期的な光熱費や快適性に思わぬ差が出ることもあります。
私たちいちたかガスワンは、LPガスを取り扱う会社として、日々さまざまな現場でお客様の暮らしを支えています。
その中で感じるのは、「最初に正しい知識を持って選ぶこと」が何よりも大切だということ。
同じ“ガス”でも、その特性や適性は家庭によってまったく違うからです。
この記事では、LPガスと都市ガスの違いを基礎からわかりやすく比較し、どんな家庭にどちらが向いているのかを整理します。
「これからどちらのガスを選べば良いのか迷っている方」も、「今のガスを見直したいと考えている方」もぜひご覧ください。
1,LPガスと都市ガスの基本的な違い
同じ“ガス”という言葉で呼ばれていても、LPガス(プロパンガス)と都市ガスは、原料や性質、供給方法までまったく異なるエネルギーです。
その違いを理解しておくことは、日々の光熱費や機器の選び方、さらには安全対策にも直結します。
特に、引っ越しやリフォームの際に「どちらにするか」を決めるとき、発熱量や安全性といったスペック面の知識があるかどうかで判断の質は大きく変わります。
ここではまず、両者の性質を数値や事例を交えて整理してみましょう。
ガスの成分
LPガス(Liquefied Petroleum Gas)
•主成分はプロパンまたはブタン
•常温常圧では気体ですが、圧力をかけることで液化し、コンパクトにしてボンベに詰め、各家庭や事業所などに配送されます。
•液化できるため、ガス管がない地域でも利用可能なのが大きな特徴です。
都市ガス
•主成分はメタン(天然ガス由来)
•常に気体で、地中に埋設されたガス管を通して供給されます。
•供給エリアが限られますが、一度引き込めば補充や交換の手間が不要です。
発熱量
• LPガス:約24,000kcal/m³
• 都市ガス:約11,000kcal/m³
LPガスは都市ガスのおよそ2倍の発熱量を持っています。
同じ体積で比べると、より多くの熱を発生させられるため、高火力が求められる調理や暖房、瞬間湯沸かしなどで力を発揮します。
比重
• LPガス:空気より重い(空気=1.0に対し約1.5〜2.0)
• 都市ガス:空気より軽い(約0.6)
この違いは漏れたときの挙動に大きく関わります。
• LPガスは低い場所に溜まりやすく、床付近に滞留する傾向があります。
• 都市ガスは天井付近へ拡散しやすく、上方向に流れていきます。
そのため、ガス警報器の設置位置も以下のように異なります。
• LPガス用警報器:床近く
• 都市ガス用警報器:天井付近
こうして見ると、LPガスと都市ガスは見た目の炎は似ていても、性質の根本が違うことがわかります。
「同じガスだから機器は共通?」と思いがちですが、実際は対応するガス種に合わせて機器を選ばなければならないのです。
2,供給方法の違い
LPガスと都市ガスの大きな違いのひとつが、家庭までの届け方=供給方法です。
どちらも暮らしに欠かせないエネルギーですが、「どこから、どのようにガスが届くのか」によって、使い勝手や対応できる地域、さらには災害時の復旧スピードまで変わります。
引っ越しや新築、リフォームを検討するとき、この違いを知っておくことで、後から「思っていたのと違った」という後悔を減らすことができます。
ここでは、それぞれの特徴を暮らし目線で整理してみましょう。
LPガス:ボンベ配送方式(もしくはバルク供給方式)
(※参照:一般社団法人日本ガス協会HPより)
• 供給方法:ガス会社が配送車で定期的にボンベを配送・交換
• メリット:ガス管が通っていない地域でも利用可能、全国ほぼどこでも対応
• 特徴:液化してボンベに詰められるため持ち運び・補充が容易
• 注意点:敷地内にボンベ設置スペースが必要、安全基準の距離制限あり
• 暮らしのイメージ:庭や建物横にボンベを置くため、外構や駐車スペースとの兼ね合いを事前に確認しておくと安心
都市ガス:ガス管直結方式
(※参照:一般社団法人日本ガス協会HPより)
• 供給方法:地域のガス管網から直接、埋設配管を通じて供給
• メリット:ボンベ交換や残量確認不要、安定して使い続けられる
• 特徴:埋設管により安定した供給が可能で、残量を気にせず使えるのが強み
• 注意点:利用できるのは供給エリア内のみ、導入時には配管工事が必要
• 暮らしのイメージ:一度配管が引き込まれれば、長期不在でも途切れず供給される安心感
供給方法で見る選び方のヒント
3,料金体系と価格差
ガスを選ぶとき、多くの方が最も気になるのが毎月の料金ではないでしょうか。
LPガスも都市ガスも「使った分だけ請求される」という点は共通していますが、その料金の仕組みや決まり方には大きな違いがあります。
ここを正しく理解しておくと、単に「高い・安い」という印象だけでなく、なぜ差が生まれるのかまで見えてきます。
基本料金+従量料金
両者とも、毎月のガス代は以下の2つの合計で構成されます。
1. 基本料金
● 契約や保安管理、設備維持などにかかる固定費
● 使用量がゼロでも発生します
2. 従量料金
● 使ったガスの量に応じて計算される料金
● 1㎥(立方メートル)あたりの単価はガス種や契約条件で異なります
都市ガスが安いと言われる理由
• 公共性が高い
都市ガスは多くの場合、主に地域の大手ガス事業者が運営し、公共料金に近い性質を持っています。
• 一括供給
ガス管を通して大規模に供給するため、配送コストが低く抑えられます。
• 料金設定が安定
燃料の調達先や供給方式が安定しており、需要の変動や配送条件による影響を受けにくいため、価格が大きく上下しにくい傾向があります。
LPガスは自由料金制
• 料金はガス会社ごとに異なる
LPガスは「自由料金制」のため、
事業者が自由に単価を設定できます。
• 交渉や業者変更で料金削減の余地あり
同じ地域・同じ使用量でも、契約する会社によって料金が変わることがあります。
• サービスの幅が広い
設備メンテナンスやセット割など、料金に纏わるサービス内容も会社ごとに異なります。
料金面の比較
選び方のヒント
• 料金の安定性を重視するなら都市ガス
• サービスや契約条件で柔軟に選びたいならLPガス
(関連記事:LPガスと都市ガスはどちらが高い?メリット・デメリットと特徴を解説)
4,安全性と事故時の対応
ガスは日常生活に欠かせないエネルギーですが、万が一の事故や災害時には大きな危険を伴います。
だからこそ、LPガスと都市ガスそれぞれの性質を理解し、適切な安全対策を取ることが重要でしょう。
特にガス漏れ時の動き方や警報器の設置位置、そして供給停止の仕組みは、家庭の安全を守るうえで欠かせないポイントですのでチェックしておきましょう。
漏れたときの挙動
• LPガス:空気より重いため、床面や低い場所に溜まりやすい
• 都市ガス:空気より軽いため、天井付近や上方向に拡散しやすい
この違いが、警報器の設置位置や換気方法に直結します。
ガス警報器の設置位置
• LPガス用警報器:ガスが下に溜まりやすいため、床から30cm程度の低い位置に設置
• 都市ガス用警報器:ガスが上に流れやすいため、天井付近(天井から30cm以内)に設置
供給停止の仕組み
LPガス・都市ガスともに、マイコンメーターと呼ばれる安全装置が設置されており、以下のような異常を感知すると自動的にガスを遮断します。
• 大量漏洩を検知した場合
• 長時間の使用が続いた場合
• 震度5相当以上の揺れを感知した場合
• ガス警報器が完治した場合 など
安全性と事故時対応の比較
ポイント
ガス種によってガスの比重や警報器の位置が異なるため、引っ越しや契約時には必ず確認しましょう。
(関連記事:ある日突然ガスが使えない…。ガスメーターの故障かな?と思ったら読むコラム)
5,災害時の対応と復旧スピード
地震や台風などの自然災害が発生すると、ガスの供給は安全確保のために一時的に停止されます。
このとき、LPガスと都市ガスでは復旧までの流れやスピードが大きく異なります。
日常生活の中ではあまり意識する機会はありませんが、災害後にガスが使えない期間が長引くと、調理・給湯・暖房など暮らしのあらゆる場面に影響が出ますので「いざ」というときの違いを理解しておくことは、防災計画の一部としても重要です。
(関連記事:もしもの時の備え~灯油・LPガス・都市ガスの災害対応力は?~)
LPガスの場合
• 復旧方法:各家庭のボンベや設備ごとに安全点検を行い、問題がなければ再開
• 特徴:ガス配管や設備の安全が確認できれば、個別に順次復旧できる
• 強み:被害が軽い地域から早く供給再開できるため、全体復旧を待たずに使えるケースも多い
都市ガスの場合
• 復旧方法:ガス管の安全確認・修理後に地域単位で供給を再開
• 特徴:地中のガス管は被害範囲が広くなる可能性がある
• 注意点:復旧は全体の安全確認が終わってからの一斉再開が基本のため、時間がかかる場合がある
災害時の復旧比較
ポイント
災害時の早期復旧を重視する場合は、各家庭で独立供給ができるLPガスの強みが生きます。
6,LPガスと都市ガスのメリット・デメリットとは?
ガスを選ぶときに欠かせないのが、それぞれのメリットとデメリットを正しく理解することです。
料金や発熱量、対応エリア、災害時の復旧方法など、どちらにも長所と短所があります。
片方だけを良い・悪いと決めつけず、自分の暮らしや地域の条件に合うほうを選ぶことが、長期的な満足度につながります。
以下の表では、LPガスと都市ガスの特徴をひと目で比較できるよう整理しました。
補足まとめ
• LPガスは対応エリアが広く、高火力が魅力。災害時には個別復旧が可能ですが、料金は都市ガスより高めになる場合があります。
• 都市ガスは割安で使い続けやすく、補充の手間がありません。ただし対応エリアが限られ、災害時の復旧は時間がかかる場合があります。
選び方のヒント
日常の利便性やコストを重視するなら都市ガス、柔軟な設置と災害時の強さを重視するならLPガスが向いています
7,FAQ
Q1. LPガスから都市ガスに切り替えられますか?
A. 可能です。ただし、ガス機器の交換や配管工事が必要になる場合があり、工事費用や日程も考慮する必要があります。
Q2. LPガスの料金が都市ガスより高くなることがあるのはなぜですか?
A. 個別配送や保安点検、在庫管理などの運用コストが加わるためです。また、自由料金制のため事業者ごとに価格設定が異なります。
Q3. 都市ガス地域であえてLPガスを選ぶメリットは?
A. 高火力を必要とする調理や暖房機器を使いたい場合や、災害時に個別復旧が可能な点を重視する場合に適しています。
Q4. LPガスと都市ガスでは使える機器は同じですか?
A. いいえ、ガスの種類によって対応する機器が異なります。購入や交換時には必ず「LPガス用」または「都市ガス用」を確認しましょう。
Q5. ガス警報器はどちらも同じものを使えますか?
A. 使えません。LPガスは空気より重いため床付近、都市ガスは空気より軽いため天井付近に警報器を設置する必要があり、機種も異なります。
8,まとめ|LPガスと都市ガス、あなたに合うのはどっち?
LPガスと都市ガスは、同じ“ガス”という名前でも成分・供給方法・料金・安全性・災害時の対応まで、その仕組みや特徴が大きく異なります。
• LPガスは、全国ほぼどこでも利用できる対応エリアの広さと高い発熱量が魅力。災害時にも個別復旧が可能で柔軟性がありますが、料金は都市ガスに比べ高くなる場合があります。
• 都市ガスは、割安な料金と使い続けやすい安定供給が特徴。ただし対応できる地域は限られ、災害時の復旧は広域単位になるため時間がかかる場合があります。
選び方のポイント
• 日常のランニングコストや安定性を優先 → 都市ガス
• 高火力や災害時の強さ、設置の自由度を優先 → LPガス
暮らし方や地域の条件によって、どちらが最適かは変わります。
もし迷っている場合は、料金だけでなく、供給方法や安全面も含めて総合的に判断することをおすすめします。
いちたかガスワンでは、お客様の住環境やライフスタイルに合わせて、最適なガスの選び方や機器のご提案を行っています。まずはお気軽にご相談ください。